王国植物だより(春)

※種目の後の月の表示は見ごろの時期を表しています。
なお、原則としてそれぞれの草花の写真を撮影した時期を開花期(見ごろの時期)と見なしています。植物図鑑等で開花期として表記されている時期と異同がある場合や、撮影した時期以前から既に開花している場合もあります。また、その年によって開花状況が異なることや、開花しない場合もありますので、あくまでも参考としてご覧ください。
雪割草(3月上旬)
冬から春へと移り変わる時期に、雪を押しのけるようにして咲く花を「雪割草」と総称するようで、フクジュソウも雪割草と呼ばれるそうです。ここでその名で紹介するのは、「ミスミソウ」です。緑の王国のある櫛挽周辺ではあまり降雪はありませんが、最初は地を這うように伸びて蕾をつけていた茎が、次第に天を向き立ち上がるようにして花を咲かせる姿は、可憐ながらも「雪を割って」成長していく逞しさを感じさせます。王国では一重咲きがほとんどですが、花弁の数が多い多弁咲きや八重咲き、雄しべの形がユニークな日輪咲きなど、咲き姿にもいろいろとバリエーションがあるそうです。
リュウキンカ(3月上旬)
リュウキンカは沼地や湿地を好む多年草で、春先に咲きます。花弁に見えるのは「がく」の部分で、花弁はありません。茎が直立し、金色(もちろん純金ではありませんが)の花を咲かせることから、「立金花」と呼ばれます。陽光を浴びてピカピカ光る花弁状の「がく」はとてもきれいです。エナメル質にも見えます。花仲間ガーデンやラクウショウの森の水辺に咲いています。
沈丁花(3月中旬)
松任谷由実の「春よ、こい」にも登場する沈丁花(ジンチョウゲ)は、春のさきがけの花として多くの世代になじみ深い花でしょう。庭木や公園などに植えられる木でもあります。沈丁花といえばその薫り高いにおいがまず思い浮かびますが、鉛筆を集めたような蕾が一つ一つほどかれて、星形の花が顔を出すさまにも初春の趣があります。香りのする花々で訪れた人々に癒しを与えようとのコンセプトで2015年に作庭され、環境省の第10回みどり香るまちづくり企画コンテストで環境大臣賞を受賞した「「Healing Felling Garden 癒しの庭(通称:ヒーリングガーデン)」には白花の沈丁花があります。また2021年に同じコンテストに関連して受賞した「みどり香るまち大賞」の副賞として贈呈された紅花の沈丁花も、園内に植えられています。
沈丁花(咲き始め)
白花の沈丁花(ヒーリングガーデン) 香りの花々で訪れた人を癒すというコンセプトの「ヒーリングガーデン」に、香りの花の一種として植えられています。
梅園(3月の様子)
ふかや緑の王国では、例年3月初頭の土曜日、日曜日で「梅まつり」を開催しています。ふかや緑の王国は、その前身が埼玉県農林総合研究センター園芸研究所であったことから、花木の種類が豊富で、梅はおよそ100種類が植えられています。梅にそんなにたくさん種類があることがまず驚きですが、確かに色や形、咲く時期など、注意深く見ると皆違っているのです。 早いものは「冬」の項目で紹介した通り1月から咲き始めますが、ようやく全ての梅が咲き揃うのは2月下旬から3月上旬。3月中旬に入ってしまうと、もう終わりです。ここでは、爛熟と言っても良さそうな、3月初旬の梅園の様子を写真で見てみましょう。 最近は各種メディア等で開花状況が取りあげられることが増えており、県北の「梅の名所」として定着しつつあるのかな?と、自負しております。
桜(3月中旬から4月)
梅もたくさん種類がありますが、桜も様々なものが見られます。誰もが愛する(たぶん)ソメイヨシノや、ちょっと遅めの八重桜、紅色が目に鮮やかなヒカンザクラ、中には秋から冬にかけて咲いてしまういわゆる「十月桜」もあります。 樹齢数十年であろうと思われる大樹ばかりですが、王国ひろばには、緑の王国建国10周年記念として、2018年に桜の若木を植樹しました。まだひょろひょろの目立たない木ですが、毎年しっかりと花をつけています。こちらも注目してあげてください。
通用門側駐車場裏に咲くソメイヨシノ。
八重桜(山野草ガーデン)
サステナブルガーデンの桜
山野草ガーデン池のほとりに咲くソメイヨシノ
サステナブルガーデンの桜
ヒカンザクラ(山野草ガーデン)
葉桜
カタクリ(3月下旬)
カタクリといえば片栗粉がすぐ連想されますが、これはラッキョウに似た根茎を磨り潰して作ったものです。花のカタクリは3月下旬ごろに、まだら模様のある葉の間から茎が伸び、先端に紫色の花を咲かせます。カタクリの花は花弁と「がく」の区別がつかない花被片(かひへん)というものですが、これが次第に後ろに反り返って茎の先端をくるむようになるのが面白い点です。山野草ガーデンにあります。
スノーフレーク(3月下旬)
スノーフレークは、「オオマツユキソウ」「ギンランスイセン」の名もあるヒガンバナ科の球根植物です。3月下旬頃から咲いているのが見られます。スズランに似ていますが、花弁の先に緑色の斑点がつくのが特徴的です。花仲間ガーデンの池の周囲、またヒーリングガーデンでもたくさん咲いています。
コブシとモクレン(3月中旬から下旬)
同じ時期に咲く形の似た花なので間違いやすいかもしれませんが、コブシの方がモクレンより花びらが薄く、そしてコブシは花が咲く時にはもう葉が出ています。(モクレンは花が終わってから葉が出る種類が多いそうです)葉の形で見分けるなら、一般的にコブシの葉の方がモクレンよりも丸みがあるようです。 コブシは蕾の形が子供の握りこぶしに似ていることからこの名がついたと言われます。昔はコブシが咲くと農耕の準備や種まきの目安にしたようで、「田打ち桜」、「種まき桜」との異名でも知られています。コブシの花を見てどっこいしょと腰を上げるお百姓さんの姿が見えるようです。 モクレンは中国原産で、なんと1億年前の化石も見つかっているほど古くからある樹木です。欧米では「マグノリア」の名で愛され、世界的に親しまれる春を代表する木と言っていいでしょう。あたかも燈火を捧げ持つように天を向いて咲く花で、中がどうなっているのか、ほとんどわかりません。花弁が大きく、色も美しく、樹高があってひと際目立つため、長く親しまれているのでしょう。 緑の王国ではヒーリングガーデンや山野草ガーデンでハクモクレンを、花仲間ガーデンで桃色のサラサモクレンを、王国通りでコブシを見ることができます。 (下の写真はヒーリングガーデンのハクモクレン)
右手にハクモクレン。左手奥にヒカンザクラ。(山野草ガーデン)
左の写真の右奥のハクモクレンの花。(拡大)
サラサモクレン(花仲間ガーデン)
ヒーリングガーデンのハクモクレン
ヒーリングガーデンのハクモクレン
サラサモクレン。触り心地よさそうな感じがします。
モクレン「サヨナラ」の拡大写真
コブシ(花仲間ガーデン) モクレンより花弁が薄手で、花と葉が両方見られます。 3月半ばの王国通り。コブシとモクレンが両方見られます。
コブシ(花仲間ガーデン) 花弁に縮れがあります。
バイモ(3月下旬)
漢字では「貝母」と書きます。地中の鱗茎が貝殻を合わせたような形をしているのが由来とのことです。花の内側に網目模様ができることから「アミガサユリ」とも言います。あまり目立たない花ですが高さ50センチから60センチにも成長します。薬草としても活用され、鱗茎は咳止め薬や解熱薬にもなります。花仲間ガーデン、メディカルガーデンで見ることができます。
ハナミズキ(4月中旬から下旬)
1912年、当時の尾崎行雄・東京市長が、日米友好のためにアメリカへソメイヨシノを贈り、その返礼として1915年にアメリカからやってきたのが、どうやらハナミズキのルーツであるそうです。尾崎が贈ったソメイヨシノは虫害が発生したため全て焼却されてしまいましたが、アメリカ側から「紅花苗10本と白花苗40本」が贈られてきた中の一部は、現在も日比谷公園に残存しているそうです。およそ100年で、今や日本中に広まったハナミズキは、海を越えた友情の証とも言えるでしょうか。 日本名は「アメリカヤマボウシ」と言い、言われてみると葉の上に乗っかるように咲いている花の姿はヤマボウシを彷彿とさせます。ヤマボウシのように、秋になると赤い実をつけます。 緑の王国の正門を入るとすぐ目の前を続く道が「ハナミズキ通り」で、道に沿って赤と白のハナミズキが植えられています。カメラを向ける人も多く、緑の王国の春の象徴と言える大事な樹木です。
レンギョウ(3月上旬)
春先に、星のような黄色い花をたくさんつけるレンギョウ。原産地の中国では「黄寿丹」、韓国では「ケナリ」と呼ばれ、それぞれ長く愛されています。日本でも古来より親しまれており、薬草としての歴史も長く持ちます。少なくとも10世紀の書物には、薬草としての言及があるとか。(解熱剤、皮膚病の治療に実を使用したそうです。) 中国や朝鮮半島でも親しまれてきたのは、「シナレンギョウ」、「チョウセンレンギョウ」という種類があることからもわかります。下の写真はシナレンギョウで、枝がまっすぐに伸び、花が俯き加減に咲くのが特徴です。チョウセンレンギョウは外側へ大きく展開するように咲き、幹や枝が次第に弓のように弧を描き始めるのが特徴です。まだ花の少ない時期に、黄金の固まりのようなレンギョウが陽光に輝く姿は、なかなか心を揺さぶるものがあります。
スモークツリーガーデンのチョウセンレンギョウ。周囲の枯れた情景の中でよく目立っています。
こちらはローズガーデンのフェンスに絡みついているレンギョウです。
1枚目の写真と同じシナレンギョウ。カエデ通りの梅園の向かい側に咲きます。直立してすっと伸びていく姿がよくわかります。
スモークツリーガーデンのチョウセンレンギョウ。自由奔放に花をびっしりつけた枝が広がっていきます。
サクラソウ(4月上旬から下旬)
ここで紹介するのは、いわゆる日本サクラソウであり、西洋サクラソウとして知られる種類はプリムラ(プリムローズ)と総称されます。日本サクラソウは育成が容易でない品種が多く、しかし改良や掛け合わせがしやすいことから、江戸時代より根強い人気を保っている花です。 4月も後半にさしかかる時期に、皺の寄った厚手の葉の中からすっと伸びた茎の先に、桜のような可愛らしい花を咲かせます。薄紅と白が主な色ですが、紅にも微妙な濃淡の差異があり、また花弁の形もよく見ると一本一本少しずつ違っています。常に湿度を保っている場所を好む花なので、緑の王国では花仲間ガーデンの池の周囲や、そこから東に向かって続く川のほとりに数か所に分散して植栽しています。
花仲間ガーデン池のほとりのサクラソウ
さくら草ガーデンのサクラソウ。管理事務所裏に広がっています。
サクラソウは春に咲き終わると夏場は休眠しています。しかしこの休眠期にも水やりは欠かせないので、鉢で育てるのはなかなか大変です。
リキュウバイ(4月上旬)
リキュウバイは中国由来のバラ科の落葉低木です。日本には明治時代に渡来し、茶花としてよく使われたことから千利休にちなんでこう呼ばれるそうです。さほど普及率が高くないためどこでも見られるというわけではないようですが、4月初めに白い花をたくさんつけて風に揺れている様子はとても見ごたえがあります。

ヤマブキ(4月上旬)
ヤマブキは日本と中国に分布する落葉低木です。黄色く大きな五弁花がよく目立ちます。高さは2メートルにもなります。ロックガーデンやサステナブルガーデンで見られます。
ヒトリシズカ(3月末から4月上旬)
あまりメジャーな花ばかり紹介していてもつまらないので、ちょっとここで知られざる(そうでもないかな)花を一つ。 センリョウ科に属する山野草のヒトリシズカです。源義経の悲恋のパートナーと言われる静御前に因んで名づけられています。「静御前のように優美な姿」などとまことしやかに書いている図鑑もあり、「会ったことあるんですか?」と突っ込みたくなりますが、ちょっと独特の存在感のある花です。 4月に差し掛かろうという頃、色艶がよく葉脈の彫りが深い葉の中からブラシのような形をした花が出てきます。これは雄しべで、花糸と呼ばれるものです。一本の中から一つしか花が咲かないため、「ヒトリシズカ」と呼ばれ、これの仲間で二つ以上花の咲くものを「フタリシズカ」と言います。(最もヒトリシズカでも二つ咲く場合もあります。)フタリシズカの方が花は遅く、5月頃に咲きます。
肩こりをほぐす健康器具にこんな形のものがあったような・・・?それにしても、一口に花と言っても実にいろいろな咲き方をするものだと感心してしまいます。
意外と写真に撮るのが難しいのです。 でも一見の価値あるユニークな花ですね。
ヤマシャクヤク(4月上旬)
ヤマシャクヤクは高さ40~50センチになる多年草で、茎の先に白い花を一つ上向きにつけます。咲き始めはシュークリームのような形に見え、花弁は完全に開ききることなく、次第に一枚、二枚と散っていきます。山地に生え、シャクヤクに似ていることが名前の由来です。ヤマシャクヤクの仲間で紅花をつけるベニバナヤマシャクヤクも山野草ガーデンで見ることができます。(5月中旬から下旬)
咲き始めのヤマシャクヤク
ベニバナヤマシャクヤク
クロフネツツジ(4月上旬から中旬)
花仲間ガーデンのサラサモクレンの裏にあるピンクの花を咲かせる木がクロフネツツジです。 何が黒船かと言えば、黒船(外国船)によって海外からもたらされたことに因んでいます。とは言え、史上有名なペリーの黒船ではなく、17世紀半ばに渡来したと言われています。中国から朝鮮半島に自生するらしく、黒船の出所もそのあたりなのでしょうか。 なんといってもこの花は、色彩といい花の形といい大きさといい咲く量といい申し分なく豊かで美しく、実に優雅で気品と華があり(そりゃ花ですから)「ツツジの女王」と呼ばれるのも頷けます。あまり背が高くないので咲くまでは目立ちませんが、空間の裂け目からあふれ出すかのように満開に咲く光景には感動します。
ハナミズキ通りから花仲間ガーデンを抜けスモークツリーガーデンへ至る小道の途中にあります。
チューリップ(4月中旬から下旬)
どの花見てもきれいなチューリップ。その原産地は、一説には中国・天山山脈とされています。昔トルコ軍がここまで攻めてきた時、山の中に咲く色とりどりの花に感激し、祖国に持ち帰り愛好家が増えました。冷酷無残な人が多い歴代のスルタン(皇帝)の中にも、自らチューリップを栽培し作庭にいそしむ人が多かったそうです。ヨーロッパに移入するのはその後。トルコ人の巻くターバンに因んで、「チューリップ」という名で呼ばれるようになり、交配による微妙な斑の違いがもてはやされるようになりました。 殊に17世紀中期のオランダでは、いわゆるバブル経済を引き起こしたとされるほど投機の対象となり、価値が上がりました。ある商人が残したわずか30株ほどのチューリップで、その遺児6人が一生涯ラクに暮らせるだけの金額になったとか・・・。全く嘘のような話です。 しかし人間の迷いには関係なく、花は花で毎年しっかり咲いています。牧場ガーデン、ヒーリングガーデン、花仲間ガーデン、フローラガーデンなど、どこを見てもチューリップ!という時期も。色も種類も豊富で、原種のものも咲いています。 (下はサンクンガーデン)
牧場ガーデン
フローラガーデン
ヒーリングガーデン ここには原種のものも植えられています。
花仲間ガーデン
フローラガーデン
王国通り突き当たりの植え込みのチューリップ
ハンカチノキ(4月中旬から下旬)
苞と呼ばれる部分をハンカチに見立てて、このような名で呼ばれます。中国の高地に自生するそうですが、日本でも化石が見つかっているらしく、かつては日本国内でも育っていたようです。しかし今となっては馴染みの薄い木ではないでしょうか。木全体が葉をつけたなと思うと、その隙間からチラチラと「ハンカチ」が揺れているのが見え、咲いていることに気づきます。一気に咲くとなかなかきれいですが、やがて「ハンカチ」は虫に食べられたり縮んだりして見えなくなってしまいます。
まだきれいな姿を保っています。 1枚目の写真はやや末期に差し掛かっていますね。
オダマキ(4月下旬)
オダマキは春先にたくさん群れて咲く花です。花色が豊富で様々な場所に咲いているのを楽しめます。艶のある複雑な形をした美しい花が特徴的で、気品のあるたたずまいです。スモークツリーガーデン、ロックガーデン、山野草ガーデンで見ることができます。
タイツリソウ(4月下旬)
タイツリソウという名前の通り、鯛を釣り上げたような形に見えることからこう呼ばれます。仏具の「華鬘(けまん)」に似ることから「ケマンソウ」とも言いますが、前者の名前のほうがインパクトがあります。江戸時代に中国から伝わり、観賞用として楽しまれてきました、高さ60センチにもなります。赤花が一般的ですが、白花も咲いています。どちらも花仲間ガーデンで見ることができます。


ニセアカシア(4月下旬から5月上旬)
一般的に日本で「アカシア」と呼ばれる樹木は、本当は「ニセアカシア」という種類です。樹高は20メートルにも達し、房状の花をたくさんつけます。葉の付け根に一対のトゲがあり、また樹形が「エンジュ」の木に似ていることから「ハリエンジュ」の名でも呼ばれます。白色の花をつけるそうですが、緑の王国のニセアカシアはどう見ても桃色の花です。ヒーリングガーデンの西端にある一際背高のっぽの木がそれです。
木の高さは20メートル程あります。
ハチが蜜を集めに来るので、開花期に近くを通るといつもブンブン羽音が聞こえます。
更新日:2023年03月27日