葉っぱの上の集合住宅「虫こぶ」の世界
その1,マンサク
突然ですがこれは何でしょう?
葉っぱの上にツノが生えています。しかも一つや二つではありません。
これは通称「虫こぶ」と呼ばれるものです。正式には「フシ」ですが、確かにこぶのように見えます。
虫の字が入るとおり、中には虫がいます。たいていはアブラムシです。
この虫こぶは、上の写真のマンサク(ホタルの小川付近)の木の葉にできています。赤丸で囲んだ部分です。
面白いことに、このマンサクだけに寄生するアブラムシが入っているのです。
名前は「マンサクハフクロフシアブラムシ」。長くてややこしいですが、「木の名前」+「できる場所」+「形状」+「アブラムシ」と名前のパターンは決まっています。
この場合、「マンサクの葉の上に袋状にできるアブラムシのすみか」ということです。
虫こぶは特別珍しいものではなく、よく見かけます。
正式には「虫癭(ちゅうえい)」といい、虫が卵を産み付けた刺激で葉の表面が異常に発達した状態です。葉だけでなく、芽や子房(果実になる部分)に産み付けられて膨れ上がる場合もあります。
とはいえやはり木にとっては多少のダメージになるようです。マンサクハフクロフシアブラムシは、天敵から身を守るためにマンサクの葉の上に卵を産み、膨らんでいく中でアブラムシが成長していきます。
そして成虫になると、このように袋を破って出ていくようです。
では、気になる袋の中身はどうなっているのでしょうか。

虫たちには悪いですが、一つ中を割って見てみました。赤い粒状のものがアブラムシの幼虫、下に見える黒っぽいものが、羽の生えた成虫と思われます。
園内には何種類かマンサクがありますが、この虫こぶができるのはただの「マンサク」だけで、黄色い花が咲く「シナマンサク」や赤い花の「ベニマンサク」には出来ていませんでした。どうやってアブラムシたちが他のマンサクと区別しているのか謎ですが、うまく共存しているように見受けられました。
もちろんマンサクにとって全然無害ということはないのでしょうが、見た目はまさにアブラムシの集合住宅。いつかどこかで目にした時は、虫たちの住宅事情に思いを馳せてあげてください。
その2,イスノキ
虫こぶの中でもよく知られているのが、梅園にあるこのイスノキ(矢印)にできる虫こぶです。
イスノキは「柞の木」と書き、名前の由来は分かりませんが、少し木を触ればすぐ分かるとても頑丈な性質で、家具や建材に使われるそうです。
そんなイスノキですが、近づくと一目で葉っぱがただごとではない状況になっているのが分かります。
表側
裏面
表面に出ている葉の大半が、吹き出物のようなデコボコで覆われています。白っぽいものもあれば茶色や黒く変色したものも。裏側を見ると穴が開いており、すでに大半が「空き家」になっている一方、よく見るとまだ「在室中」のものも見られました。
ちなみに昔の子供は、この穴に向かって息を吹きかけ「ヒョー、ヒョー」と音を出して遊んだそうで、「ヒョンノキ」という別名もあります。ただ意外ときれいに音を出すのは難しく、子供の小さな口(たぶん)なら上手くいくかもしれません。
卵を産み付けられて間もない葉(表側)
左の葉の裏側。穴が開いておらず「在室中」。
「在室中」の葉(表側)
「在室中」の葉(裏側)
このイスノキにも、特有のアブラムシが寄生するようで、ことにこの木はマンサクと違って常緑樹なので、一年中この状態かと思われます。やはり木へのダメージは皆無というわけではないのでしょうが、葉にはツヤがあり、春にはちゃんと花も咲いています。
あいにく蕾の状態の写真しかありませんが、これがイスノキの花です。4月上旬に撮ったものです。そして手前の蕾の真後ろの葉はまだ発芽して間もないと思われる小ささですが、すでにアブラムシの寄生が始まったのか膨らみかけているのが分かります。
イスノキに育まれたアブラムシは、成虫になるとまたイスノキに卵を産み付け、命をつないでいきます。一体いつからこの関係が始まったのか、誰が最初に気づいたのか、遥かに思いを馳せるしかありませんが、まだまだ世界には知らないことがたくさんあると実感します。
3,エゴノキ
ここまで葉の上にできる虫こぶを見てきましたが、違うパターンもひとつ観察してみましょう。
下の写真はまるで蕾のように見えますが、れっきとした虫こぶです。
これはエゴノキの芽の部分にできる虫こぶです。葉の上ではなく、付け根部分にできます。
この虫こぶもアブラムシの寄生によってできますが、なんと「エゴノネコアシアブラムシ」と呼ばれるそうです。猫の足!まさしくそのもの。素晴らしいネーミングセンスに脱帽です。ただ触ってみても、ホンモノの「猫足」と違ってそれほど柔らかくはありません。
正面から見ると猫の足というよりも蕾に見えます。この中にアブラムシがたくさん入っているそうですが、幸い、すでに「空き家」状態でした。
この猫足はエゴノキにいくつもできるのかと思いきや、この木の他の場所には見つかりませんでした。ただ別のエゴノキの枝に注目してみると、以前についていたと思われる猫足の残骸らしきがそのままぶら下がっていました(下の写真)。とすると、さほど珍しくないのでしょう。エゴノキは山野でよく見られる馴染み深い木です。時期には花も鈴なりにつけてとてもきれいですが、今度は趣向を変えて、「アブラムシたちの集合住宅」をチェックしてみるのも面白いでしょう。
もともとの状態を知らずこれだけ見たら確実に「分からない」で終わるでしょう。何年前のものかは判別のしようもありませんが、猫足の残骸と思われます。
更新日:2026年06月09日