ヒガンバナあれこれ

更新日:2025年09月30日

ヒガンバナ

お彼岸の時期に咲くからヒガンバナ。赤い触手のような花弁を空に向かって伸ばすその姿も独特で、この世のものならざる花にも見えます。よく群生して咲き、その様を遠くから見ると赤い雲が地上に下ってきたかのような佇まい。そんなヒガンバナですが、花自体の美しさが認識されるようになってきたのは比較的最近のことです。

鍵はリコリン

昔はヒガンバナと言えば墓場の花。なので死人花とか幽霊花、捨子花など、ネガティヴな別名を多く持ちます。どこにでも生えることから誰にとっても身近な花だったのでしょう。他にも数多くの別名があり、500種類とも1000種類とも言われているのだから驚きです。親しまれていない花だったのにこんなにたくさん名前があるのは珍しい。そのほとんどはやはり暗い意味を持っているそうで、人の記憶や感情の負の部分を刺激する花だったのでしょうか。

しかしヒガンバナが墓地に多かったのはそれなりに理由があります。それは球根に含まれるリコリンという成分。これは有毒な性質を持ち、動物が摂取すると吐き気を催し、多量に身体に取り込むと出血や赤血球・白血球・体重の減少が見られると言われています。そのため主にネズミ避けとして墓地に植えられるようになったと考えられているのです。お供え物や地中の遺体を荒らすのを防ぐためだったのでしょう。田んぼの畦に多いのも、同様に稲を荒らすネズミを追い払う目的だったと言われています。球根を丸ごとつぶして人家の壁に塗りネズミ退治をしていたという話もあるので、嫌われるどころか、昔の暮らしにはとても役に立つ花だったと言えます。逆に言えばそういういきさつが忘れられたことで、墓地を好む赤く忌まわしい花、というイメージが主役になってしまったのかもしれません。

リコリンは体内に摂取すると人間にも有害ですが、外用薬としてはおなじみのものでした。特に球根をすりおろして土踏まずの近くに貼ると、腹水や関節炎で溜まった水を体の外に出す作用があり、利尿剤としては有名だったのです。また同じくすりおろした球根を患部に貼ることで、腫れや炎症、いんきんやたむしが治る効果もありました(ただし長く貼るとかぶれたとか)。

ヒガンバナを食べた?

今となっては想像もつきませんが、もともとヒガンバナは食べるための植物でした。天災で主食の米が不作の年に食べる作物、いわゆる救荒作物の一種として、原産地の中国から朝鮮半島経由でもたらされたと考えられています。渡って来た時期はよく分かりませんが、当時はとても貴重な植物として大切に育てられ、子供が花を摘むことすら禁じられていたと言われています。

食べる部分はもちろん球根(正確には鱗茎)。しかしこのままでは有毒成分のリコリンが含まれているので、水洗いします。リコリンは水溶性なのでこれでなくなるそうです。そして表面の薄皮をはがし、すり潰して残ったでんぷんを食用にしました。食べずにでんぷん糊としても使ったそうです。後述のようにヒガンバナは場所を選ばず球根でよく増えるので、それなりに救荒作物としては役に立ったことでしょう。ちなみにヒガンバナの花・茎・葉も有毒なので、口にするのは危険です。口にした人の実感でしょうか、「シタマガリ」というこれまたストレートな別名もあります。

ヒガンバナの球根

ヒガンバナの球根 表面にリコリンが含まれているので食べるときはよく洗い皮をむく。

ヒガンバナ球根すりつぶしてみた

器に球根を移してつぶすと底に粘りが残った。これがでんぷんのようだ。

互いを知らない花と葉

ヒガンバナは秋に咲きますが、完全に咲き終わって茎も枯れた後に葉が出てきます。ヒガンバナがあったはずのところに、冬、青々とした細い葉がたくさん生えてきたとしたら、その正体はヒガンバナの葉です。こうしたすれ違いを演じる植物のことを「葉見ず、花見ず」と言います。何だか会えそうで会えない織姫&彦星みたいですが、そこはネガティヴフラワー・ヒガンバナだけに、なんと「葉っ欠け草」なんて身もフタもない別名を奉られている始末。しかもそこから転じて「歯っ欠け草」とも呼ばれていたとか。一度ついた負のイメージが拭えないのは花も人も同じなのか(深い意味はありません)。ちなみに日本人よりも先にヒガンバナを見ていただろうお隣韓国では、花は葉を思い、葉は花を思う「相思華」と呼ぶそうで、さすが冬のソナタ(いつの話だ)を生んだ国だけのことはあります。互いを見たことがないのだから思いようがないではないか、などという華も色もない蕪雑な感想は胸にしまっておきましょう。

田んぼのヒガンバナ

ふかや村の田んぼの通路沿いのアセビの根元にヒガンバナが毎年咲く。

ヒガンバナの葉

12月を過ぎると同じ場所に細長い葉が旺盛に繁茂する(矢印)。これがヒガンバナの葉。

種はできません

ヒガンバナ

水辺であろうと芝生であろうとほとんどどこでも生えてくるが、極端に強い日差しは嫌うらしい。

原産地中国のヒガンバナは種ができますが、日本のヒガンバナにはできません。そのためヒガンバナは球根で増えていきます。この球根は先述の通りいろいろと役に立ったり毒になったりするわけですが、種ができないということは農家の人にとっては不吉な言葉。ヒガンバナのせいでお前の畑には実りがない!なんて心ないことを言うイジワルもいたのでしょうか。もちろん人間が生命を伝えていく上でも、「種がない」というのは大問題ですから、そういう性質も相まってヒガンバナは嫌われるようになったのだ、と言う人もいます。

ではなぜ種ができないのか?大半の生物(人間や動物、植物も含めて)は同じ染色体を二つずつ持ちます。これが減数分裂して半分(一組ずつ)になると、生殖細胞が作れます。ところが、ヒガンバナは、同じ染色体を三つずつ持っているので、上手く半分に分かれず、生殖細胞が作れないのです。そこで球根で増えていくことになります。このような性質を「三倍体」と言います。

球根で増えるということは、最初は人が植えなければなりません。種であれば、人や動物にくっついたり風に飛ばされたりして移動が可能ですが、球根はもちろん自力では動けません。そのため、ヒガンバナは山に自生することのない植物と言われています。もし山の中でヒガンバナを見かけたとしたら、それは誰かが植えたもの。全く周囲にヒガンバナのないところに一輪だけ咲いていたとしたら・・・オウ、ミステリアス。想像が膨らみますね。

マンジュシャゲの由来

南門のヒガンバナ

園内南門の近くに毎年群をなして咲く。

あえてここまで言及しませんでしたが、ヒガンバナのもっとも有名な別名はマンジュシャゲ。漢字では「曼珠沙華」と書きます。花の姿を思わせる何だかあでやかな字面ですが、どういう意味なのでしょうか。

これはもともと法華経から来た言葉です。その中に「魔訶 曼陀羅華 曼珠沙華」(まか まんだらげ まんじゅしゃげ)という一節があり、ここから取られたと言われています。マカなんちゃらかんちゃらというのはお経を聞いているとよく出てくる言葉ですが、「魔訶」とは梵語(古代インドの文章語・サンスクリット)で「大きい」という意味です。

曼珠沙華とはこの言葉が中国に渡ってから当てられた漢字であり、もともと梵語で「マンジュサカ」と言いました。これは伝説上の花で、人間の悪業を払い平穏な境地に導くとされ、本来は純白の花だったそうです。今では曼珠沙華の意味は、「赤い花」、「天上の花」と言われているので、「天上に咲く赤い花」と捉えておけばよいでしょう。

ちなみに別名の一つに「テンガイバナ」というものもありますが、漢字では「天蓋花」、「天涯花」と二つあるようです。前者だと天の笠(菅笠?)の花ということで、あの弓なりの花の形が天を覆う様をイメージしているのでしょうか。後者だと、天の果ての花。これはあの世の花と言っているようなものでしょう。どちらにせよ、現世ではない高いところで咲き誇る花というイメージをかきたてる花なのです。

ちなみに「魔訶 曼陀羅華」のマンダラゲの方は、チョウセンアサガオという薬草になる花を指します。江戸時代の医師・華岡青洲が世界初の全身麻酔手術に麻酔薬として用いたことでも知られますが、現在では滅多に見られません。ただ仲間のケチョウセンアサガオは雑草としてよく生えてきます。

突然変異誕生!?

ヒガンバナは大きいもので高さ50cmほどですが、それよりも小さく30cmくらいで咲くものもあります。背が低いヒガンバナも、やはり高いヒガンバナと同じく血のゆき渡った血管のように赤い花を持ちますが、稀に、明らかに全体的に白っぽく赤が薄い花が見られることもあります。これはヒガンバナの突然変異種「ワラベノカンザシ」です。実は緑の王国の田んぼの畦に、これの球根が混じっていて咲くのです。

ワラベノカンザシ
ワラベノカンザシ

これよりもっと色が薄いものもある。

写真のとおり、ふつうのヒガンバナの半分程度で花を咲かせており、脱色の途中のような色合いです。名前は大きさに由来したものか、子どもがかんざしにして遊ぶ(だろう)というイメージなのでしょう。これは畦に生えることが多いようですが、除草剤の影響で生まれたものと考えられています。ということは、それほど昔からあったとは思えません。歴史が浅いためか謎も多く、分布範囲、つまり国内のどの地方でなら見られるかということすらよく分かっていないのです。

もし稲の時期に田んぼの周りを散歩することがあるなら、ヒガンバナの中にワラベノカンザシが混じっているのを発見できるかもしれません。どこで咲くか分からないということは、どこに咲いていても不思議はないということでしょう。「小さくて色が薄い」がキーワードです。

ちなみにヒガンバナは赤だけでなく、白い品種もあり、これも赤と同時期によく咲いているのを見かけます。またヒガンバナより小さく、2~3週間ほど早く咲くコヒガンバナもあり、これは「三倍体」ではなくわれわれ人間と同じ「二倍体」なので、種が出来るヒガンバナになります。

シロバナヒガンバナ

シロバナヒガンバナ ヒガンバナとショウキズイセンの交雑したもの。ショウキズイセンはヒガンバナの仲間で形はよく似ているが色は黄色。

八重咲ヒガンバナ

園芸種の八重咲きヒガンバナ

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