「ミョウガ」、「ゴボウ」と呼ぶけれど
ある植物の名前の一部に別の植物(や野菜)の名前が入っているがために、その植物(野菜)の仲間なんだ!といわれのない勘違いをされてしまう、というケースがよくあります。たとえば○○ニンジンという名前の植物をよく見かけますが、こういう名前がついているからと言って、すべてがニンジンの仲間というわけではなく、大方は、「根がニンジンに似ているから」という理由でニンジンの名前を与えられているに過ぎないのです。
ただ単に勘違いして覚えてしまう、というだけならまだいいのですが、困ってしまうのは、食べられる植物(や野菜)の名前が入っていることから、これもイケるかもしれない!というチャレンジャー精神を誘発してしまうパターンです。その結果、最悪の場合にはこの世とお別れ、なんて結末にもなりかねないので、名前に惑わされて試食するのはくれぐれもやめましょう。生えている危ないモノはキノコだけではないのです。さて、ここではある野菜の名前をつけられてしまったがために、いらない勘違いをされている身近な二つの植物について紹介します。
ヤブミョウガ
この植物の前で名前を紹介すると「え?ミョウガなの?」という反応が必ず返ってきますが、ミョウガの仲間ではありません。無関係です。
ヤブミョウガはツユクサ科に分類される多年草で、ヤブの名の通り日陰や木陰を好んで生えてきます。どんどん大きくなり、群落を作ることも。ミョウガの名前がついた理由は、葉がミョウガの葉に似ているからですが、ヤブミョウガの葉は鮮やかな緑色で光沢があり、つやつやしています。一方「本当の」ミョウガの方はやや褪めた色合いの緑で、光沢はありません。またミョウガは写真のような地下茎にできるつぼみ部分を食べるわけですが、ヤブミョウガにはできません。花の構造も全く違います。
ミョウガの葉。ヤブミョウガの葉に比べると抹茶色といった感じ。
この部分を食べる。これは地中に埋もれているつぼみで、茎の根本に顔を出して花を咲かせるが、花が咲くと味が落ちると言われている。
ヤブミョウガの根。何もついていない。これを食べようという人はそうはいないはず。
ミョウガに比べてあまりとりえのなさそうなヤブミョウガですが、特筆すべきは花と実。全体が白くて丸っこい花は日陰に咲くことからも涼しげな印象を与えます。花が終わると最初は薄緑の実をつけ、これがだんだん深い藍色のような色に移り変わっていきます。葉と同様に実にも光沢とつやが出てくるので、つい摘んでしまうほどきれいです。ただしこの輝きは長くは続かず、じき実は変色して光沢もつやも消えうせます。この実を割ると中から黒い粉のようなものが出てきますが、これが種子のようです。日の当らないところや木陰であれば大抵はどこに蒔いても育ち、きれいな姿のわりにしぶとさを感じさせます。
花が咲き、終わって美しい実がつき、それも変色してやがて落ちるという全ての段階が一本の茎で見られるのも面白い。
ヤブミョウガの群落。大きな木の下など日陰で見られる。花がきれいなので除去されず、いつの間にか実ができてどんどん増えてしまうというパターン。
ヤブミョウガの花。一つ一つの花は一日で終わる。
若い実がつきはじめたところ
そんなヤブミョウガですが、根っこはただの根っこだし、実は光っていてきれいですが食べ応えがありそうには思えないので、チャレンジャーの探究心をそそる要素はないと思われます。どうしても食べてみたい人は、スーパーでミョウガを買って我慢してください。
ヨウシュヤマゴボウ
この植物の前で名前を紹介すると「え?ゴボウなの?」という反応が必ず返ってきますが、ゴボウの仲間ではありません。山菜のヤマゴボウとも違います。
このヨウシュヤマゴボウもヤブミョウガ同様、夏場にとてもよく見る草ですが、日なたでも日陰でもお構いなしに生えてきます。ただ日なたのほうがよく成長し、たちまち大人の身長を越すほどの大きさになります。ある図鑑には4メートルまで育つとあり、そこまで大きなものはなかなか見たことはありませんが、2メートル程度のものであれば手入れされていない原っぱや植え込みでよく見られると思います。
赤い円で囲った部分がヨウシュヤマゴボウ。この時点で2メートル近い。実はまだ紫に成熟していない。
さて、そんなヨウシュヤマゴボウですが、平然と生えているまぎれもない毒草です。大きな葉もゴボウのような根も、そして(これが一番肝心)ブドウのように房が垂れ下がるつやのある実も、全てが猛毒です。もう一度、念のために繰り返しましょう。
ヨウシュヤマゴボウは、葉も根も実も、全てが猛毒です!!!!
特にいかにも食べられそうにぶら下がっている実を誤食して救急搬送された、という老若男女を問わないチャレンジャーの末路がしばしば報じられています。厚生労働省によると、2014年から2023年までにヨウシュヤマゴボウによる中毒は全国で5件報告されているとのこと。食べると嘔吐、発熱、激しい下痢を引き起こし、死亡する場合もあるというので穏やかではありません。時期は不明ですが、女児が大量の実をつぶして飲み、死亡した事例もあった模様。どうせニュースになるなら名誉あることでなりたいものです。
(しかしたまに歩道の真ん中に、大半の実が消えた状態のヨウシュヤマゴボウの房が落ちているのを見かけることがあり、鳥(カラス?)は食べているのかもしれません。)
ヨウシュヤマゴボウの実。ブドウやブルーベリーによく似ているが、そのまま食べると命のキケンが!
水につけて実をつぶすとこの通り。インク代わりに絵や字をかける。
この見た目からヨウシュ=洋酒=ワインかと思われがちだが、ヨウシュヤマゴボウのヨウシュは「洋種」と書く。原産地はアメリカで、アメリカヤマボゴウとも呼ぶ。
成熟する前段階の実。まだ緑色で固くつぶれにくい。
ヨウシュヤマゴボウの根。何の変哲もなさそうに見えるが、食べると激しい下痢、嘔吐、発熱、そして・・・💀
何よりも子どもが実を口に入れないよう、家の庭や敷地に生えてきたら実がつく前に速やかな除去が必要です。もっとも少量の摂取であれば、即命に関わるということはなさそうですが、大人に比べて体の小さい子どもなので、油断はできません。とりわけ子どもは何でも遊び道具にするもの。かくいう私も、あの紫色の実をすりつぶして遊んだりした記憶があります。別名インクベリーとも呼ばれ、なるほど水に溶かすときれいではありますが(写真参照)、そこでストップ!目で見て楽しむだけにしましょう。大きく育っても茎は柔らかいので簡単に踏み倒せますが、根まで除去するのが確実です。
折れたり曲がったりしてもそのまま成長を続けるしぶとさ。茎は赤くなり実が特徴的なので、一度形を覚えればどこにでも生えてくるのが分かる。
更新日:2025年09月08日