ラクウショウとメタセコイア
ラクウショウの紅葉
正門を入るとすぐ右手側に、見上げるほどの巨木群がそびえ立っているのが目に入ります。これはラクウショウとメタセコイアです。
どちらも遠目には似たような雰囲気の木で、青葉が茂る夏場は特に見分けづらくはありますが、それぞれ面白い特徴を備えている樹木です。
ラクウショウ
ラクウショウは漢字では「落羽松」と書きます。開いた鳥の羽に見える葉が枝ごと落下することに由来しています。また、「ヌマスギ」(沼杉)とも呼ばれ、実はスギの仲間です(メタセコイアも)。このラクウショウは、何と言っても下の写真の部位が有名です。
家族が寄り添っている彫刻のように見えます。一番大きいので40センチほど。
地面から涌いてきた小人のような奇妙な物体。これは「気根(きこん)」と言います。ラクウショウは特に水辺や湿地を好み根を張りますが、頭上がすぐ水では呼吸しづらいため、周囲の乾いた地面にこの気根を出して呼吸しているのです。
ラクウショウ(矢印)と気根(赤丸)。中央は池。
写真のように水辺にラクウショウがそびえています。そして中央を川が流れており、その下をくぐって反対側の地上にたくさん気根が出るのです。大きさは小さいものは5cm程度ですが、おおむね30cm~50cmの間が大半で、一番大きいと思われるもので64cmありました。
既にある木の根元に生えてくる気根(矢印)
まだ顔を出して間もないと思われる小さな気根
54cmの大きさの気根。
また今生えているもので終わり、というわけでもなく、新しく顔を出しているものも見られるので、新旧の交代もあるのかもしれません。ただ、すでに生えている木の脇から出てくる気根も中にはあり、恐らく隣の木の生育にも影響は有り得るはず。本来ラクウショウは周囲に小さい木や植栽のない場所にあるのが望ましいのでしょうか?しかし乾燥地や陸地に育つラクウショウに気根は出てこないため、水辺のラクウショウの近くで花苗など小さなものを植えるのは考え物、かもしれません。
メタセコイアとの大きな違いは、この気根の有無ですが、葉でも区別がつきます。
木の葉が枝につく主なつき方に、対生(たいせい)と互生(ごせい)の二つがあります(これ以外にもあります)。
対生は対になっているということで、枝をはさんだ二枚の葉がきれいに対になってつきます。互生は互い違いということで、対生とは違って一見してバラバラについているように見えます。
メタセコイアは対生、ラクウショウは互生につきます。この点もはっきりした違いです(ちなみに私はメタイセイコイアと覚えています)。
メタセコイアの葉 茎を挟んできれいに葉が相向かいになっている。
ラクウショウの葉 メタセコイアと違って葉は相向かいにならず、ばらばらにつく。
メタセコイア
メタセコイア。12月中旬撮影。
メタセコイアはラクウショウよりも馴染みのある樹木と言えるでしょう。並木道として有名な場所があり、住宅街や公園、駅のロータリーに植えられているのもよく見ます。ラクウショウと似ていますが、樹形はきれいな円錐形になり、真直ぐ幹が伸びて見た目にも美しく、かつては枕木にも使用されたとか。
そんなメタセコイアですが、元々は日本で化石として発見され、その後中国で生きている実物が見つかったという経緯を持つ樹木です。化石を発見したのが日本人ということもあり、戦後まだ間もない時期、ちょっとした明るいニュースとなりました。とはいえ日本原産というわけではなく、元々は世界中にあったそうです。その後アメリカから日本にもたらされたメタセコイアは皇居に植えられ、やがて日本中に広がりました。
12月上旬のメタセコイア。夕日を浴びて赤く輝く。
昭和天皇がこのメタセコイアを大変好まれたことも有名です。メタセコイアにはアケボノスギという別名もあり、秋には真赤に紅葉することによる名前ですが、その朝日が昇るような赤い姿に、天皇は、復興していく戦後の日本の姿を重ねて成長を楽しまれていたと言われています。
ところで10月の後半になると、メタセコイアには面白い変化が現れます。下の写真にご注目。何やら葉の上に黄色っぽい雪のようなものが積もっているように見えます。
実はこれ、つぼみなのです。ということは、このメタセコイアにも花が咲くわけですね。
つぼみといっても、一つ一つは米粒のように小さいものが固まってブドウの房のように垂れ下がっているのがこの姿です。全体的に白っぽく見えるのはおよそ2週間で、その後茶色く変色します。といってもつぼみが枯れてしまったのではなく、この状態で冬を越すのです。
そしてとても地味な花を咲かせるのは翌3月。日本では開花せずつぼみの状態で終わることが多いとも言われますが、少なくともここ緑の王国のメタセコイアはしっかりと咲いています。写真のように球状のつぼみの先が割れて花が顔を出し、やや茎が伸びていることで区別される先端部分の雌花を除き、すべてが雄花です。雌花は一つの房に2つくらいしかつきません。メタセコイアの花はふつう身長より高いところにあるので近くでは見られないと思われがちですが、風で地面に落ちているものも多いので、観察しようと思えば機会はあります。
メタセコイアのつぼみ 今年(2025年)2月20日に採取したもの。まだつぼみは固いまま。
3月10日に採取したもの。つぼみが開き、黄色い花が咲いた。
矢印の部分のみ雌花。わずかに茎のようなものが出て、その先に花がついているのがわかる。一つの房に雌花は2つ程度しかつかず、これがのちに実となる。
この雌花がのちのち実となります。ラクウショウにも似たような形状の実がつきますが、よく見ると違っています。ラクウショウの実はひし形の面がいくつも組み合わさってできており、まるでサッカーボールのように見えます。地面に落ちると、やがてそれぞれのひし形の面が分離し、全体はバラバラに砕けます。砕けた粒のそれぞれには松ヤニのようなべたべたした液がついています。メタセコイアの実にはバレーボールのような横に走る筋が入っています。こちらは乾燥しても砕けることなく、松ぼっくりのように筋と筋の間がだんだん開いて、中にまつかさに似た種子が入っています。写真を見てのとおり、大きさもラクウショウの方がメタセコイアの3倍くらいあるのですぐ見分けはつくでしょう。

左がラクウショウの実(約3センチ)、右がメタセコイアの実(約1センチ)。7月ごろから地面に散らばり始める。
ラクウショウの実(左)と乾燥して砕けたあとの状態(右)
メタセコイアの実。一番上が7月中旬に拾った当初。まだ水分を含んでいたのか、室内に置いておいたらじき左下のように裂けて、中から松かさのような種子が出てきた。ずっと外で転がっているままだと、程よく水分が抜けるのか右下のように全体的に丸い形を留めて口が開く。
ところでここまでメタセコイアの花の話をしてきましたが、ではラクウショウの花はどうなっているのか?と疑問を持たれる向きもあるかもしれません。ラクウショウの花はメタセコイアの花と似た形ですが、残念ながらメタセコイアに比べて遥かに目立ちません。メタセコイアと同じく小花をつけた房が垂れますが白くなるわけではなく、正直、「あ、花咲くんだ」という感じです。ラクウショウもメタセコイアと同様、雄花が垂れて咲き、先端の数個だけが雌花でのちに球状の実となるようです。
ラクウショウの紅葉と実。上に掲載した写真は緑色の段階で落ちた実だが、この写真のように紅葉する12月ごろになっても残り続け、茶色になるものもある。枝についたまま風雨で砕け、地面に落ちるものもあるだろう。
更新日:2025年07月18日