確実な受粉のために

更新日:2025年07月08日

 植物にとって一番大切なことは子孫を残すこと。つまり種子をつくることです。そのためにはまず、おしべの花粉とめしべの花粉が混ざること、すなわち受粉しなければなりません。受粉のために役立ってくれるのが、ハチを始めとする虫たちですね。しかし種子をつけなければならない植物は、高い花、安い花、雑草などなど、地上の星?のごとくにたくさんあります。そこで植物たちも、より確実に虫たちに来てもらい受粉できるように、体の構造にいろいろと工夫を加えているのです。

1、ハンゲショウ

6月の終わりごろから花仲間ガーデンの池に見られるようになるハンゲショウ。ドクダミ科の植物で、なるほどドクダミを思わせる佇まいです。高さは1メートル以上と、ドクダミの倍ほどの大きさになります。

ハンゲショウ

この植物のユニークな点は、花がつき始めるころになると、葉が白くなること。花と言っても、最初は小さい穂のようなとても目立たないもので、これでは虫に対してもあまりアピールになりません。そこで花のすぐ隣にある葉が白くなって花のフリをし、虫たちをおびき寄せて本当の花に誘導しているのだと言われています。大抵は、「片白草」という別名のように葉の半分のみが白くなりますが、実際には葉全体が粉をまぶしたように真っ白になっているものもよく見ます。

もっともすべての葉が白くなるのではなく、花がつく上の部分のみとなります。そして花が終わり種ができるころになると、もうお役御免とばかりに、だんだん葉の白が薄くなっていくのです。受粉のために葉が一役買う植物とはなかなか珍しいものです。

ハンゲショウ

上の写真から約3週間後。花が終わり虫をおびき寄せる必要性がなくなると、葉の白色が抜けて元の緑色に戻る。

2、オオモクゲンジ

最盛期のオオモクゲンジ

最盛期のオオモクゲンジ、9月中旬

毎年ちょうど9月の初めから2週間ほど黄色い花をたくさんつけるオオモクゲンジ。「ゴールデン・レイン・ツリー=黄金の雨の木」という異名の通り、晴れた日には青空を背に、とても引き立つ樹木です(実際にはこの時期は秋雨前線がかかっていて曇り日が多く、晴れた日は多くはありませんが)。ある図鑑に寄れば「関西の寺院」に多いということで、関東地方で見る機会自体少ないと思われます。10メートルほどの大木に成長してしまうためそもそも民家での植栽には適さず、寺院などの広い敷地によく見られるそうです。ところで、この「黄金の雨」とも呼ばれる花ですが、一つ一つをよく見るととても面白い形をしています。

オオモクゲンジ花の接写

花弁が全て後ろを向いて、中央のしべのある部分が突き出ているのです。まるで「ひょっとこ」のような見た目。なぜこんな奇妙とも思える形状なのか?しばらく様子を見ることにしました。満開の時期には、無数の花をめがけて無数のハチたちが蜜の獲得に集まってきます。その羽音の集積は木が発する唸り声のようで、ちょっと怖くなってくるほど。まあ、彼らは蜜を集めることに懸命なので、邪魔をしない限り襲ってはきません。

ところで花に向かってハチが飛んでくるのを観察していると、面白いことに、ハチは花にまともに抱きつくようにして蜜を探っているのです。やや体の大きいクマンバチも、それほど大きくないミツバチも、花弁の先端がつくる輪の周りに足をかけて掴まって蜜を集め、次々に他の花に移っていきます。なるほど、花弁が横広がりの状態では掴まる部分もなく、ホバリングした状態で蜜を集めるのでしょうが、これなら安定した体勢で蜜を集められて確実に、ハチの体に花粉が付着して、受粉は上手くいくでしょう。ハチもたくさん来てくれそうです。

オオモクゲンジとハチ
オオモクゲンジとミツバチ

さらに考察を進めるなら、恐らくオオモクゲンジの花は最初から花弁がこういう形をしていたのではなく、ハチが掴まりやすいように、だんだん後ろに反っていったのでしょう。そしてもうこれ以上後ろに行きようがない、という完成形が、今我々が見るこの花の姿なのです。

しかしそう考えると不思議です。オオモクゲンジは世界中に散らばっていて、恐らくみなこういう花の形をしているはずですが、いつ反り返っていこうという共通認識が出来たのか?人間みたいにどこかに集まって話し合うことなどできない彼らが、虫たちにとって自分の体がどういう形なら生き残りに適するのかをどうやって判断し、実際に変更を加えていくことが出来たのか?この疑問への正確な答えを見出すことは極めて困難でしょう。しかしそれはどこかの時点で確かに起きたことなのです。人間が地球に関して分かっていることがいかに微々たるものであるか、これ一つ見ても痛感します。

3、カリガネソウ

カリガネソウ

一見して「何かありそうな予感」のするこの植物、カリガネソウです。雁が羽を広げて飛ぶ姿になぞらえてこの名前がありますが、名前よりもすぐ、スッと伸びたアンテナのような部位に誰もが注目することでしょう。これは何のためにあるのか。

カリガネソウ

中央の花二つ、まだアンテナの先端に黄色い花粉が残っているので、ハチが来ていないと思われる。

 

実はこの部分には花粉がついています。ハチがカリガネソウの蜜を吸うために花の正面から取り付くと、その重さでアンテナは前に傾きます。すると、ちょうどハチの背に花粉が付着する仕組みになっているのです。そしてまた違うカリガネソウに行って同様に蜜を集めれば、ハチの知らぬ間に受粉が成り立つということになります。

ずいぶん趣向を凝らしたもので、実際うまくいっているらしく、役目をはたしたアンテナの先端(しべの部分)の花粉がなくなっているのをよく見かけます。ハチの背に花粉が付着するシーンもぜひ見てみたいものです。このカリガネソウ、花もユニークですが、葉から何かを燻したような独特なにおいがするのも特徴で、二つながらにインパクトの強い夏から秋にかけての山野草です。

カリガネソウ

150cmほどの高さがあり、花をたくさんつける。鮮やかな緑の葉は何かを燻したような強いにおいを放ち、離れていてもわかるほど。

4,まとめ

以上、確実な受粉のため、それぞれ独特の発達を遂げた3種の植物を見てきましたが、これらはまだまだ氷山の一角です。人間からすれば、「よく考えたなあ」とノンキに受け流してしまえる程度の話ですが、植物たちは生き残りをかけた「ハチ来い大作戦」として、これまで見てきたような手法を編み出したのでしょう。植物ならではのユニークな発想、人間の私たちも、日常の何気ない部分に手を加えるヒントになるかもしれません

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